A.大人なところ示そうとジャズのコーナーへと足を運んだ。


じつは以前からジャズには興味があって、色々聴いてみたいと思っていたのだ。

好きだけど互いになんとなく近寄りがたい。
そんな関係が俺とジャズの間にはあったのかもしれない。
せっかくだからと少し音量を大きめにしてじゃじーな世界を堪能することにした。

気分よくジャズを聴いていると、再びカナからのメールが来る。




「9時になります・・・。もうしわけない」








もうしばらくジャズと俺との時間は続きそうだ。

9時近くになると、CD屋さんのアナウンスが「もうすぐ閉店なので出ていっててね」とおっしゃり始めたようだったので、ヘッドホンを外し店を出ることにした。
外に出てまず気付いたのが、ちょっと耳をやられていたこと。
少し大音量で聴きすぎたようだ。

わずかに平衡感覚を失いながらも駅にたどり着くと、カナから電話がかかってくる。
携帯電話の普及のおかげで、こういう待ち合わせはとてもやりやすくなった。
たとえ互いの顔を知らない人同士であっても出会うことはそう難しいことではない。

じつはカナと会うのはこれが初めてではなくて、ちょうど2年ほど前に一度オフ会で会ったことがあるのだ。
だからね。決して顔がわからなくても携帯のおかげで会えたって言いたいんじゃないよ。
決して顔を忘れてたとかじゃないよ。

そんなこんなで無事2年ぶりにカナと出会うことができた。



克「おひさしぶりです」



はにかみながら言った俺の一言から会話が始まり、俺らは歩きだした。

目当ての店があるのかと尋ねたが、案の定カナは柏に来るのすら初めてで、店など知らないと言う。
本当はもっとおしゃれな店を紹介したりしたほうがいいのかもしれないが、あいにく俺が知っているのはマックと吉野家とファミレスだけだ。

そこでその中から、俺の全力とも言える無名のファミレスを選び抜くことにした。
探しておいてよかった。


ファミレスの近くまで来ると、なぜか話題は2人の共通の友人である「あしん」くんのことになっていた。
あしんくんはしばらく前までコンビニのサンクスでアルバイトをしていたので、そんな話をつらつらとしていたのである。
さらに話はサンクスの制服のことになった。
どんな制服だったか。
ぶっちゃけ俺はどうでもよかったが、カナは気になっていたようだった。

よく見ると、なんと運良くファミレスの横にサンクスがあるではないか。
俺とカナはこっそり中を覗き、店員さんの制服を見ることにした。







カナ「べつに普通だね。」

克「うん。」







うん。このエピソードはべつに書かなくてもよかった。


ファミレスに入り、空いている席に座った。
もはや夕飯時ではないのであろう。席はたくさん空いてたので迷うほどであった。
ていうか迷った。

迷ったのは席選びだけではない。
優柔不断な俺はメニューを見ながらさらに迷う。

迷ったあげく、どこをどう間違えたのか、毎日食べ飽きているはずのスパゲティを頼む俺がいた。
たしか「きのことベーコンの和風スパゲティ」みたいな名前だったと思う。

いいや、家で食べるスパゲティと外で食べるスパゲティには大きな違いがある。
俺はそこをわかっていたのだろう。
家では粉チーズをかけるなんてことは高ついて到底できることではないが、ここでならふんだんにかけることができるのだ。


注文してからしばらくすると、俺の前になんとかスパゲティが、カナの前にはリゾットみたいのが運ばれてきた。


喜び勇んで粉チーズに手を伸ばす俺を、ある考えが制止しようとしていた。
カナの目の前で惜しみなく粉チーズをかけるのはいかがなものか。
ここだけの話、俺はいつも引くぐらいの量の粉チーズをかける。
初めて見たらほんと引くと思う。
学食で見慣れているはずの友人にも「それはスパゲティじゃなくてチーズだろ」といわれる。

そんな姿をカナに見せるのはどうなのか・・・。

俺は再び決断を迫られていた。



A.俺はいつもの20分の1の量の粉チーズをかけることにした。
B.俺はいつもの20倍の量の粉チーズをかけることにした。