克の梅雨日記(最終回) 2002.7.1

昨晩から降り続いた雨がすっかり街を濡らしていた。


母が仕事の関係で東京に来ているというので、今日は一晩母が泊まっていくことになった。
このジメジメ蒸し暑い中、エアコンが壊れた俺の部屋で寝泊りするなんて物好きな母親もいたものだ。

母が来るといっても、なにしろ平日なもので俺はほぼ一日中学校に行っていて家にはいない。
そこで合鍵を持っている母は、俺が帰宅するのより早く到着し、買い物や、食事の用意なんかをして待っていることになったのだ。

最近忙しくて、家に帰り着くのが午後8時頃になることが多く、夕飯に困ることも多かった克だが、今日ばかりはそんな心配は不要のようだ。
久々に人間が作った料理が食べられる。
克はるんるん気分で帰宅したのだった。



家に着いたのはいつもより早めの午後6時。
どうやら母は買い物中らしく、大きな荷物だけが部屋の中に置いてあった。

しばらくすると、スーパーの袋に食料を大量に詰め込んだ母が帰ってきた。
埃を被った食器や賞味期限の切れた調味料達に驚いていた母だが、なんとか料理してくれるらしい。
醤油の賞味期限が2001年11月だったので、醤油だけ俺が走って買ってきたんだけどね。



母は一昨日から東京に来ていて、昨日までは妹のところに泊まっていたそうだ。
用事を済ませた母は、妹と一緒にショッピングに行ったり、コンサートに行ったり、いろいろ楽しんできたようだ。

妹とお揃いの折り畳み傘を買ったのだ、とカエルを形どった柄の傘を見せてくれた。
つくづく仲のいい母娘だと思う。
俺など折れかけたコンビニ傘しか持ってないのにね・・・。


日本一似てない兄妹として有名な俺と妹だが、母と妹は強烈に似ているらしい。
幼い頃から両名を見慣れた俺にはそこまで似ているとは思えないのだが、
「同じ顔してるよね」
みたいなことを他人から言われることがしばしばある。

妹と似ていない俺は、当然母とも似ているわけがなく、そんでもって垂れ目で優しそうな顔をした父ともかけ離れた顔をしていて・・・。
ていうか親戚の中で俺と似た人が1人もいないのはどういうことですか。
家族全員文系なのに俺だけ理系ってどうですか。
もしや俺って捨・・・・

・・・いや、もうよそうこんな話。
梅雨空は余計なことを考えさせる。




そんなこんなで母の料理が出来、超豪華な食事がテーブルの上に並んだ。
筑前煮やイワシのフライ、鰹の刺身などに混じって、俺はすごいものを見つけた。






克「うぉ!ウニだ・・・!」

母「安かったから買ってきちゃった」






いやー・・・、まったく素晴らしい母親を持ったものだ。
捨て子とか言ってごめんなさい。

『食欲の秋』とかよくいうけど、あれは嘘だ。
むしろ食欲の梅雨だね。
感涙で溺れそうになりながら、ウニやその他の料理に舌鼓を打ちました。

ウニより美味いものなんておいら知りません。


母が「関東に来たら鰹食べなきゃ。鰹だけは絶対美味しいから」と言うので、食べてみることにした。
なるほど、確かに美味い。
鰹の刺身を中心に食を繰り広げていると、ウニの量がやたら減っているのに気が付いた。
母のほうに目をやると、ごっそりウニを取り皿に盛った母の姿が。

油断も隙もあったもんじゃない。
やっぱりこりゃ本当の親子のようです。