克の被害日記(最終回) 2002.5.25
それなりに清々しい気分で目が覚めた。
食べるものが何も無かったので、セブンイレブンでパンでも買って来ることにした。
ベッドから這い出し、歯を磨いて顔を洗う。
さっぱりしたところで服を着ようと、ベランダの洗濯物に目を向けた。
二日ほど干しっぱなしなのでさすがにもう乾いているだろう。
ところが、着るべき服を手に取ろうと探してみても、干したはずの服が見当たらない。
半そでのシャツと、ちょっとオシャレなパンツ(下着じゃないパンツね)が、ハンガーごと見当たらない。
気のせいじゃない。絶対に干したはずだ。
一応部屋の中も探してみたが、狭い部屋のどこにもその姿は無かった。
もう一度ベランダを見る。
他の物は何の変化もない。
盗られたんだと俺が判断するのに、長い時間はかからなかった。
ちょっとかっこよさげな服だけ無くなってるし。
1階のベランダだから、盗ろうと思えば誰でも盗れるし。
部屋を意味もなく歩き回った。
大家さんに電話しようか。
隣近所に聞いて周ろうか。
道行く人に聞き込みをしようか。
警察に電話すれば解決するだろうか。
犬のおまわりさんに聞いてみようか。
困ってしまってわんわんわわん。
何をしても無駄だろうな・・・。
結局どれも実行せずに、予定通りセブンイレブンにパンを買いに行った。
このやり場の無い怒りをどうしてくれようか。
この怒り、苛立ち、憎しみ、悔しさ、パンをどこへぶつければいいのか。
パンはぶつけないことにしたものの、他のものはどうしようもない。
エビカツバーガーを食べながらそれらの気持ちを弄んでいた。
プリプリしてて美味かった。エビ。
そうだ。
こんなときこそ、友達を頼るんだ。
きっと親身になって慰めてくれるはず。
俺は少ない友達を頼って、同じメールを何人かに送った。
内容はこうだ。
「洗濯物盗られた…」
余計な内容を含まず、ストレートに事態の深刻さを伝え、さらに最後の点々が洗濯物を盗られた若者の虚無感を表している素晴らしいメールだ。
さて、地球の人々はどんな風に慰めてくれるのか。
真っ先に大学の友人DとNから返信が来た。
Dのメール:
今Nと一緒なんだけど。大爆笑させていただいた。
Nのメール:
いまDと一緒なんだけど。大爆笑させていただいた。
こやつら・・・。
これが地球だというのか・・・。
だが俺は、中学生が早食いして喉を詰まらせて亡くなった責任をテレビ局に押し付けるようなことはしたくない。
警察も市も大家さんも隣人も誰も恨まない。
ますます俺の中でもやもやが大きくなる。
ここは一つリラックスしようと思い、久々にテトリスでもすることにした。
何を隠そう、俺ってばけっこうテトリスが得意なのだ。
リラックスのつもりで始めたはずだったのだけど、なぜか白熱しちゃって・・・。
一番高いレベルから始めて540列を消すという大記録を作ってしまった。
しかし・・・
テトリスしてもあまり気は休まらなかった。
仕方ないので寝ることにした。
ふて寝ってやつだな。
英語で「ふて寝」ってなんていうのかな。
まぁいいや・・・
この際英語のことは忘れよう。
だいたいいつも忘れてるしね。英語のことなんて。
(・x・)
寝て起きるとけっこうすっきりしてた。
凹んだときにこそ頑張るのが、俺の強いところだよな。うん。
凹むだけ凹んでも何もいいことないもんな。
盗られたシャツが高そうに見えてじつは1800円だったのは内緒にしとこう。