克の毛のような日記(最終回) 2010.5.13

なんだこれはと思って掴んだその毛はまぎれもなく俺の尻尾であった。

またか、と俺は諦めにも似た表情の顔の絵を壁に描き足した。
これで253個のガッカリ顔の絵が壁に刻まれたことになる。

自分に尻尾があることをすっかり忘れ、掴んでしまった回数がこのガッカリ顔の個数と符号している。
この壁を見るたびに自分の情けなさを痛感させられ嫌な気持ちになるのである。

そろそろこの家とも別れなければならない。
壁にはもうガッカリ顔を描くスペースはなく、次に尻尾を掴んでしまったときにどうしようもなくなってしまう。
その場合にはどうしようもなく耳から蕎麦が出てきてしまうのである。

耳から蕎麦が出てくること自体は蕎麦好きの俺にとっては嬉しいことだし、
蕎麦以外の食べ物がなくなってしまったこの世界においてはとても貴重なことであった。

今日もたくさんの人が耳蕎麦を頼って家の前に集まっていることであろう。
俺はそんな人たちの間をウナギのように縫いながら新しい家を探すのだ。