克のゴジラ対ミスド日記(最終回) 2005.8.17

男として生まれたからには避けられない戦いがある。
背後にどんな悲しい事情や他の人には理解しがたい非人道的な理由があろうとも、戦わなくてはならないときがあるのだ。
例えばジャイアンは隣町のガキ大将との戦いから逃げるわけにはいかないだろうし、
かの宮本武蔵も巌流島では船のかいを武器にしてまで戦わなければならなかったのだ。
その在り様は小さなものから大きなものまで動かす力だ。

俺も例外ではない。
今まさに強大な敵と対峙していた。
俺は近所のミスタードーナツへ行き、ドーナツを買わなくてはならないのだった。

ご存知ない方のために説明しておこう。
ミスタードーナツ、通称ミスドという店は、厳しい試練に耐え抜いた者のみがお手ごろ価格で美味しいドーナツを購入することができるシステムを備えた新しいタイプのお店なのだ。

ミスドの試練は怖ろしい。
店員のほぼ100%は女性であり、店内の客を含めてもその男女比はどんなによくても半々だ。
せめて男:女=9:1くらいじゃないと落ち着けない俺にとってはまさに地獄だ。

店内の状態のわからないミスドに乗り込む俺は、飛んで火に入る夏のティッシュと言っていいだろう。
だが俺は行かなくてはならなかったのだ。


意を決して俺は乗り込んだ。
入り口を背にして左手にショーケースとレジ、右手に座って食べるスペースみたいなところがある。
正面は少し進めば壁だ。

さて店に入ってそのまま立ち止まっているわけにもいくまい。
どちらの方向を向くべきか。

右手に目をやると客の大半が女性であることがわかる。
正面にはレジに並ぶ女子高生たち。
この確認作業は1秒足らずで行われていることを付け加えておく。
余裕を持って状況を確認するなどすでにできるはずもない。

右手と正面の壊滅的な状況に目をつぶって俺は左に体を向けた。
案の定店員は女の子である。
カラシ入りのシュークリームを食べた後に求めた水にはハバネロが入っていた。

本来ならばここで落ち着かなくてはならない。
だが背後にはおびただしい数の女性、右手には女子高生たち。正面には女の子の店員。
喉元に刃を突きつけられた人間がどうして落ち着いていられようか。

だがそれでも俺はレジから少し離れ、落ち着いてショーケースの中のドーナツを選ぼうとしていたのだ。
そんなところを突然巨人の足が俺を踏みつけた。







店員さん「お決まりでしたらどうぞー」








ほぎゃああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!1


笑顔をこちらに向ける彼女の好意を・・・どうして断ることができようか。
俺は今まで見ていたドーナツの種類など全て忘れ、頭の中を真っ白にして前へ歩み出た。
しかし、歩み出たということは「お決まり」であることを外界へ表現したことに他ならない。

店員の女の子が「お決まりでしたらどうぞ」などとおっしゃりやがってくださったおかげで、
俺はお決まりではないのに、のこのことレジへ歩み寄ってしまったのである。

時間がない。
ここでお決まりでないにも関わらずお決まりでないことが周りにばれるようなことがあれば
四方から悪魔の注目を浴び

「やだぁ何あの男。なんでサンダルなの?」
「お決まりじゃないのにお決まりのふりするなんてキモーイ」
「男一人でぬけぬけとよく来れたものね」

などという殺人的なささやきが耳を貫くことになるのは目に見えている。

・・・今更落ち着いて選ぶことなどできるわけもないのだ。
俺はとっさに目に入った「エンゼルフレンチ」と「フロマージュフレンチ」を注文していた。
それはショーケースの一番上に仲良く並んでいる、いかにもとっさに目に入る位置にある2種類だった。

「プッ。男のくせにエンゼルだってぇ」
「アイタター。似たようなの2個買ってっちゃったよこの男ー」

などと店員の女の子が思ったかどうかは知らないが、俺は200円と引き換えにドーナツを2つ手に入れ
逃げるようにミスドを後にしたのだった。





勝利だよね?